迫り来るその時-2-2   水道公論2015年5月号
●復興の具体策  2024年8月
 緊急事態対策会議の2日後、震災対策閣僚会議で復興相から復興制度の提案が行われた
津波防災区域に関する法律では、
,都道府県知事は大きな津波災害が想定される場合に津波防災区域指定をしなければならないこと。
,津波防災指定区域内では、避難場所が近隣にない建物及び津波で破壊されるおそれのある建物の建築禁止、避難場所の整備促進の義務化。
,津波などによる大規模災害復旧工事、津波避難施設を兼ねる住宅の建設など緊急に実施しなければいけない事業の際、土地などの所有者の同意なしで事業着手が可能とし、一定条件の場合、補償額は評価額を上回ることができること。
,復興事業は現地に置く復興事務所が主体的に運用し、国、県、市町村、高速道路会社、鉄道会社の担当部門を束ねるものとし、復興庁はサポート役とする。県、市町村の復興事業担当部署は復興事務所の部局として事業を行う。県、市町村や事業団体による事業承認は必要であるが。資金が足りない場合は復興事務所が当面立て替えする。
,災害復旧事業は全て3年債務予算のなかで行い、年度による制約を設けない。復旧事業が、予算年度に縛られることなく、準備が整った時にいつでも執行できるようにする。これが円滑に進むよう経理体制も強化する。

,津波避難施設を兼ねる高層建物は容積率について特例扱いとし、高率の国庫補助を行う。
,被災地の区画整理事業を速やかに実施するため、高率の国庫補助を行い、道路、公園などに土地をあてるため一定率の土地を所有者から減ずる減歩率をあらかじめ決め、事業収束時に赤字になった場合国が半分補填する。

 政府部内では建築規制などで個人の私権を侵害する問題など多数の課題があったが、大臣が全ての責任を持つということで押し切り、課長補佐級の実力者数人を選び、原案を急遽作成した。各所への根回しの時間が取れず、異例の提案で大騒ぎとなったが、首相の「これができなかったら、国政の歴史に残り、今後同じような大災害が起きたら、不作為の汚名を着ることになりますよ」の一点張りの主張で一週間後におさまった。
 津波防災区域指定を都道府県知事の義務とすることも大きな論議を呼んだ。災害対策は本来国の行うことであるという議論や地方自治体の権限を侵すものというようないろいろな反対論があったが、地域の問題は基本的に地方自治体が関与することとしてまとまった。
 津波防災指定区域になると厳しい建築規制がかかるので、住民からの反発が強く予想され、復旧事業が地権者の同意なしで執行できることについて、一般紙、各種テレビ報道で問題があるとされ、国会でも、個人の資産を脅かす、公権力の乱用につながるなどとして非常に大きな反対論があった。憲法では次の規定があった。
 憲法第二十九条  財産権は、これを侵してはならない。
 2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
 3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
 災害復旧工事、津波避難施設について地権者の同意がなくても実施できる点について土地収用法の特例を設け、関連する市町村長が、速やかに、事業の認定、補償額の算定を行わなければならないことの規定を入れることで、地権者の同意なしでも執行できる条文はまとまった。
 田野復興相は鉄の女でなくコンクリートの女と揶揄されたが、いろいろな会合で、「三匹の子豚の話は皆さん幼い頃教わって良く知っているでしょう。私はレンガの家をつくろうとしている三匹目の子豚なんですよ。レンガの女と呼んで下さい」と反論していた。
 法案及び関連する法案審議は難航し、与党の民政党からも反対者がでた。早田首相はこの法案を自由投票とし、ただし誰がどう投票したか記録に残るようにした。

 この法案が通ったのは、野党第一党の政新党の執行部の理解があったことが大きい。党首以下、この問題は早期に成立しないとせっかくの機会を失うという理解で、いたずらに審議を引き延ばすことをしなかった。災害復旧工事、津波避難施設について地権者の同意がなくても実施できる点について、公共団体のホームページで2週間広報し、受付受理した意見と回答を公表すること、強制的な津波避難施設整備は津波被災地の公的団体が実施するものに限られることの申し入れを行い、与党も了承した。
 当然政新党からも反対者が出た。法案は奇跡的に1ヶ月後に議決された。
 膨大な火山性塵によって農業生産が落ち込み、世界的な食糧不足が予想される事態で、国中が大騒ぎになっていて、これが議員の危機意識を高め、強権的と思われるこの法案成立を後押しした。
 あわせて政令で建築の規定が定められた。津波で軽量の建物や自動車が流されて、他の構造物を破壊したり、大量の瓦礫を生み出すことから、
津波防災指定区域では
,指定避難場所から一定の距離以内でないと新たな建築ができない 
市街化区域ではおおむね300m(ただし被災地でない場合5年間はおおむね500m以内)、その他の区域では避難場所がおおむね1km以内
,コンクリート等の津波に流されない建物しか建てられない。また被災地の指定地域では5階建て以上などと高さ規制をすることができる。
,既存家屋、船、自動車、タンク類などの漂流防止措置
 緊急事業の場合の補償額は評価額を上回ることができる補償費上積み対象不動産は相続も含めて20年以上保有している場合とされた。
 9月の建設交通相の急病により、田野復興担当相が兼務することになり、より復興速度を上げることが期待された。