逆転の思想−156        目次
              水道公論2016年5月号


  新情報の価値
 世の中には人類の進歩に関連するいろいろな新情報があちこちから出てくる。実際に役に立つもの、期待されたが結局役に立たなかったものなど。IPS細胞のように発表当初から大きな注目を浴び、実際に発展したものもあれば、騒がれたが、進展がないものなどいろいろである。
 重要なことであるのになかなか認められなかったものもあり、その一つに日露戦争当時多数の兵が病気となった脚気の対処がある。一般国民が食べられなかった白米を軍隊では支給されていて、ビタミン不足による脚気の原因となっていた。当時海軍は英国の栄養由来説、陸軍はドイツの細菌説を信じていた。 海軍では白米でなく麦や肉類野菜が脚気を防ぐとして1884年にハワイからチリまでの287日にわたる遠洋航海で、食事内容を改善した実証実験を成功させたが、科学的根拠が認められず、陸軍では白米兵食を続け、20年後の日露戦争で25万人の患者、2.7万人もの死者を出し、ビタミンの発見までこの惨状が続いた。結局、陸軍が兵食を改善したのは日露戦争8年後の1912年であった。
 米国のサブプライムローンについて日本では1988年に、渡辺美智雄元副総理がその怪しさを指摘し、発言が差別的ということだけ大きく取り上げられたが、20年後の2008年のリーマンショックまでごまかし金融商品を高格付けで販売するなど金融界で怪しさが拡大され悪用されていた。
 心に残るのは東日本震災の大津波についてである。2006年8月の地質ニュースに載った論文の「仙台平野の堆積物に記録された歴史時代の巨大津波」では貞観津波について、少なくとも仙台東部道路の仙台東インター付近にまで貞観津波の津波堆積物を追うことができたと書かれている。この資料はホームページで見ることができる。これまで富士山大噴火などの予想が大きな話題になったが、この論文は文部科学省の研究調査の一環として、産総研や建築研究所など公的な研究機関が実施した,信頼できるものであった。
 この論文が津波対策の行政や研究の責任者に認識されていて、大津波がいつか来ると予測されていたらあれほど多数の犠牲者を出さずに済んでいだであろう。
ものの設計とか行政に従事していてこれまでの常識と違うような情報がもたらされたときその対応は難しい。新情報が大方に認められるようになるまで、対応しないのが一番楽で、責任もかからない。しかし本来の自己責任を考えるとどうであろうか。
 女川原発は津波についてもいろいろな可能性を考え、被害もなかった。
 設計の際、基準などより安全にすることは、監査などのことを考えると勇気が要るが、津波対策など、安全度を高めてもそれほどのお金がかからないものは考慮すべきであると考える。

注  雑誌では番号が155となっています。