逆転の思想−158        目次
              水道公論2016年7月号


  地盤嵩上げの効果
 津波対策のテレビ番組で、南海トラフ津波が想定される地域の幼稚園で階段や手すりを設け2階屋上に避難できるようにしていると紹介されたとき、出演者の1人がもっと高い津波が来たらどうするのと疑問を呈していた。東日本大震災では想定より大きな津波が押し寄せ、避難場所にいた多くの人が亡くなった。建物がもう一階高かったら多くの命が救われた南三陸町の防災庁舎の悲劇は人々の記憶から消えることはないであろう。津波は高さの保証がないことと、1mでも高い場所にいたら確実に助かるという特性を持っている。従って避難場所は想定津波より高いものが来ても安全であることが求められ、信頼できるものとなる。
 復興が進む東北の津波被災都市では多額の経費と年月をかけて各種規模の地盤嵩上げが行われている。
2階建て庁舎屋上へのはしごが狭くて避難が間に合わず町長が亡くなられた大槌町では中心部の津波高さ11mに対して嵩上げ高2.2m、巨大な造成工事が行われている陸前高田の高田地区では、津波高14〜18mに対し、嵩上げ高は9〜11mにもなる。
 嵩上げの高さ決定は非常に難しい判断と思われるが、想定津波高より低くなっているようである。これだと津波は想定高でも数メートルの高さで押し寄せることとなる。津波は3mでも軽量の一般家屋を押し流してしまい、これが被害を大きくし、大量の瓦礫を生み出すもととなるので、防御を考えたら、鉄筋コンクリートのような流されない建物でなくてはいけないし、津波の高さは想定より高くなる可能性は十分あるので十分高い避難場所をすぐ近くに確保する必要がある。
 また津波警報がでても、大方の場合安全であるので人が慣れてしまって避難しなくなり、いつか同様の惨事にいたるような気がする。
 被災地区ですぐ避難できる場所に高層建物を建設するようにすれば、嵩上げ工事の多額の事業費が節約でき、大津波の時以外働かない津波堤防と違い、住居、事業所など有効に使われる。また、建物の建設がすぐ可能になるので人口の流出も防げ、集合住宅では高齢化に対応したバリアフリーにできるという大きなメリットがあるのであるが、この方法の選択をしたところはないようである。その背景は戸建ての住宅しか視野にないということらしい。高盛土の上の建物は基礎をしっかりしないといけないのであるが。
 嵩上げをしてもこれまでと同じようなまちづくりになって、津波への安全度が確実に増したといえるのであろうか。

注  雑誌では番号が157となっています。