逆転の思想−159        目次
              水道公論2016年8月号


 社会の流れとGDP
  大量に発生する食品廃棄物の減少を図るため、流通段階で1/3ルールを変えようという動きがある。業界の商慣習では、食品の製造日から賞味期限までを3分割し、「販売店への納入期限は、製造日から3分の1の時点まで」「販売期限は、賞味期限の3分の2の時点まで」を限度として、それを超えたものは破棄される。賞味期限が十分あるのに製造者の段階で廃棄されるのはおかしいと、ルールを変更しようというもの。これが実施されると、廃棄食品が少なくなる分、総生産数が減って必要経費が減少し、食品廃棄物も少なくなる。原価が下がれば、その分値段を下げることができるだろう。一方、同じ水準のサービスで原料食材購入費、売上げおよび廃棄物処理費用が減ることによりその分GDPが減少する。
 廃棄されるべき食品が流通していたことが明るみに出て大問題になったが、エコとして考えると好ましいことになる。
 冷房温度を上げたり、子供服などリユースを進めるなどのエコ活動は、生活水準を確保しつつGDPを下げる働きを持つ。
 二酸化炭素削減の意識がしみわたっている社会ではエコ活動で浮いたお金を新たな支出に使うとそれだけ二酸化炭素の増加につながってしまいそうなので、二の足を踏むことになる。国民のなかにこの風潮が行き渡っていることがGDPが停滞している要因の一つであるように感ずる。
 ITによる身の回りの変化を考えると、無料に近いメールによってその分郵便コストが下がっている。電子ファイルによって紙の書類を保管することが少なくなっている。各種中古の雑貨や衣類のインターネットでの販売や交換も、その分商品の使用が継続するのでその分生産量が減ることになる。このほど刊行された続日本下水道史では行財政編が593ページ、技術編を合わせて1119ページにものぼる大著であるが、これがDVD1枚におさまっている。発行部数の大半はDVDで、用紙と印刷費の節減はすごいものである。
 タクシーに加えて一般車両が参加して人を運ぶウーバーシステムが過疎地などで期待されている。IT通信技術の進歩により、ユーザーに近い車が配車される可能性が高くなり、その分燃料コストが下がり、車の稼働率が総体として高まることになるので、自動車の販売台数は減ることになる。最近のITを駆使した新ビジネスは諸コストを下げるものばがりのようであり、エコ活動やIT技術の進展は、消費水準を下げずにGDPを減らすことになり、生活の質が確保されたままのGDP減少は好ましいものである。
 もうGDPが豊かさの象徴であるような認識を変えるべき時で、EDP(環境調整済国内純生産)など議論されているが、幸福度指数を確立するとか新たな分かりやすい指標が国際標準になることが求められる。

注  雑誌では番号が158となっています。