逆転の思想−160        目次
              水道公論2016年9月号


 情報での世界侵略
 今年の五月、ローマ時代より古い遺跡が多いイランのツアーに参加した。帰国してまわりに話すと大体何でそんなに危険なところにと驚かれることが多い。イラクとアフガニスタンに挟まれているが国内は安全で、野菜が豊富で、道路もよく整備されている。もっともチュニジアのツアーでここは他と違い安全だとされていたのに、四ヶ月後に有名な博物館が襲撃されたので世の中どう変わるのか予測は難しい。ただ日本人は自国を安全と思っているが、突然襲った津波であっという間に2万人もの命が奪われた大変危険な国である。
 イランの地方都市に泊まったとき、ホテルではBBCもCNNもなくて英語のテレビはCCTVアメリカというチャンネルしかなかった。一見ニュースが多いCNNのような国際放送であった。見ているうちにオバマ大統領の広島訪問の報道がはじまった。なんと中国のどこかの研究所研究員が登場して日本批判をあることないこと言い出したのである。また中国外相の演説を長々と流していた。番組で登場するのは西欧人が多く、体裁上は欧米の報道機関のようでありながら、自国の主張と気にくわない国への攻撃を行っていた。ただ米国への攻撃は少ないようであった。イランではこの英語放送を入れているホテルは多いようである。
 ネイティブな英語が話せる多数の人を使い、見場が良いプログラムを世界に発信するには多額の経費がかかるであろうし、地方都市のテレビでも入っていることは放映料が安いのだろうし、運営がどうなっているのか気になって調べてみた。
ウイキペディアでは日本語版がなかったが、英語版で解説が載っていて、中国中央テレビが所有する米国のテレビ局でワシントンDCに本部があり、主として南北アメリカで放映しているとある。放送局の趣旨は英語を使う視聴者に別な世界観を提供するといったことらしい。CCTVは有線放送と思っていたが中国中央テレビの英語頭文字であった。
放送局の名前にアメリカを入れ、世界各地のニュースを流しながら、学識経験者などに特定の国をひどく非難させる。普通の世界放送のように振る舞いながら、自国の主張の報道を多く入れ、間接的にPRする巧みな放送形態である。
高度に訓練された大がかりな組織でハッキングを行って政府や先端技術の機密情報を盗み出したり、情報分野はまさに仁義なき厳しい戦争の世界である。第二次大戦の頃、通信暗号を全て解読されていたことに全く気がつかず、その反省もない。まわりを見ざる聞かざるで平和が大事と唱えている社会はどんどん侵略されていく。

注  雑誌では番号が159となっています。