逆転の思想−170        目次
              水道公論2017年8月号


 獣医師の充足度
 四国地方の特区での獣医学部設置認可の経緯でもめているが、獣医学部の定数が適正なのかどうかいう根源的なことがどうだろうか。また特区による一般的な規制緩和とは性格が違うように思える。
 大学があると若い人が増え、街に活気がでてありがたいが、その建設には多額の経費がかかり、教授陣を揃えるなど大変なことばかりであるし、運営財源は、学生からの授業料だけで、不特定多数に対して売り上げるのでなく厳しいものであろう。獣医学科の新設は要望があったのに長期にわたり認められなかった。ということは政府は獣医が十分でこれ以上増やせない堅い方針を持っていたことになる。文科省は必要ないという一方、教育期間が6年にもなり、多額の収益を上げるような性格でない学部新設の希望が常にあったという正反対の考えのどちらが正しいのだろうか。国家試験を担当するなど獣医を所管する農水省も学部新設に反対のようであった。
 大学入試の難易度についてウェブで探してみた。いろいろな数字があるが、ある数字では獣医学部と薬学部とを持つ、日本大学と北里大学について偏差値は日本大学は65,67で薬学部の方が少し高い程度、北里大学は61と47で青森にある獣医学部が高い。また私立大学の最低偏差値を見ると61と44と獣医学部が高い。どうもけっこう合格が難しい学科のようである。これなら新設大学でも学生を確保する見込める。一方で、就職先が限られる狭い世界ということもある。
 獣医学会は特区による新設に反対しているようで、平成22年8月に日本獣医師学会から「「特区提案」による大学獣医学部の新設について」という文書が出ている。趣旨は、「獣医師及び動物医療の質の確保に向けた需給政策を顧みず、特定地区に大学・企業を誘致せんがため、「特区」により入学定員の緩和を図ることにより獣医学系大学を新設することには反対する」というもの。
 その説明によると獣医師の養成課程を持つ大学は16あり、毎年約千人が国家資格を取得している。卒業生はペット診療所に就職する人が多いようで、家畜の診療や公務員の獣医師が不足している。また大学教育の質を向上させる必要があるが、現実には専任教官が不足している。このため各大学を横断して再編・統合を図る方向になっている。こういう状況で勝手に学部をつくられては困るというような趣旨である。
 平成29年6月22日の文書でも、地域・職域の偏在は見られるものの、獣医師は全国的には不足していないことで、学部の新設に反対という趣旨である。
 司法試験合格者を増やそうという趣旨で大々的に設けられた法科大学院では74もの設置があったが入学者数が発足時の数千人から1/3まで減っていて、学部閉鎖も半分にのぼる。このような大がかりな無駄が行われていることを見ると、どちらがいいのかはともかく、紛糾はあってもずっと健全な社会に見える。