逆転の思想−173        目次
              水道公論2017年11月号


 進化の速度
 40億年をかけて地球上の生物は進化してきた。DNAが核に入り、エネルギー代謝を担当するミトコンドリアを持つ、真核生物が登場したのが19億年前、多細胞生物が登場したのが10億年前ととんでもない年月がかかっている。進化の過程で、多くの生物が袋小路に入って環境に応じた進化ができず絶えていった。
 億年単位から見ると極端に短いが有史以来人類も進化していて、その速度に関連する要素として民族・部族間の抗争が考えられる。競争はあっても抗争が少なく、体制が安定して続く方が進歩にいいように思われる一方、紛争時に武器の進歩が最重要となり、関連する科学技術の急進を呼ぶことになる。
 欧州では有史以来、民族が次々入れ替わってきて、戦争が絶え間なかった。ローマ時代に統一され、相当進化したのに、その後ばらばらに。EUができたが、英国の撤退やスコットランドやバスクのように一国の中でも独立志向が高いなどのケースもある。今後どうなるか。競争心と冒険心が強かったのが良かったのか、世界制覇することができた。
 中国は代々の王朝で国が統一されているように見えるが、王朝が変わる度に、前世が否定され、一からの出直しのような感じで、前の時代の進歩を受け継ぐのにマイナス要因となっていたと思われる。
 抗争を助長する要素の一つとして言語が考えられる。北方や東方から民族が侵入して支配階層になった欧州では英独語とフランス語は相当違うようだし、スラブ系はもっと異なるようである。日本でも、テレビが普及する前は地域が違うと話が通じないことがけっこうあった。かたや、同じ言語のドイツとオーストリアもあれば小さい国なのに独仏伊などの言葉が混在するスイスのような国もある。
 中東では部族間や宗派間抗争が激しく、同じイスラム教でばらばらである。言葉はイランは別として、アラビア半島から西のモロッコまで皆アラビア語が公用語であるのだが。莫大なお金を稼げる石油資源があるのに、無駄遣いしていて今後の進展も今のところ望めない。言語や宗教は抗争の元となる大きな要素ではないのだろうか。
 日本では天皇制が維持される一方、鎌倉、室町、江戸と政権交代が武力で行われただけの安定した体制に古くからなり、文化や科学技術が受け継がれてきたことが良かったと思われる。
 鎌倉時代以降、天皇制を存続させたことにより、文化や芸術が後世に受け継がれ、江戸時代に無駄な部族抗争がなくなったことで、他国に較べ進化の度合いが高いように思う。これから進化を進めた、源頼朝と徳川家康は非常に偉大に見える。
 明治以降、優れた大局観のもとで政治が進んでいたら今頃どのように進化した国になっていただろうか。