逆転の思想−176        目次
              水道公論2018年3月号


 法制度整備の進捗
 世の中の動きがどんどん早くなっているが、法制度の整備はどうなっているのだろう。膨大かつ複雑な社会経済活動が円滑に実施されるための、DNAのような存在であるので、社会の変化に法制度整備の対応が遅れると優れた新しい製品やシステムの導入が遅くなり、世界に遅れ、国際競争力が落ち、暮らしにくい状態になってしまう。
 耕作廃棄地、放置林、全国820万戸の空き家、高齢化社会など喫緊の大問題であるのに、法制度の対応が遅いように思う。
 所有者不明の土地面積は約4.1万平方キロと推定され、九州より広く狭隘な我が国の国土面積の一割を超えている。
 対策は難しくない。管理されていない土地の課税強化、地権者不明土地の公的団体による管理。道路などの公共事業に必要な土地も所有者がはっきりしなかったら事業を実施し、公的な機関が用地費を保管しておく等。ただ私有財産に対する公共の関与を強くすることに対するアレルギーが大きな障害となる。
 我が国では不動産に関して、私権の極端な尊重が当たり前とされてきており、憲法では29条において、「財産権は、これを侵してはならない。」とあるが、
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる
と公共目的の使用を認めている。
 また12条では国民の権利は乱用してはならず、公共の福祉のために利用する責任を負うとされている。
 憲法でこう規定されているのに、法曹界などで私権がの過度の尊重される傾向があって、土地神話が生まれ、公共事業では大半の費用が用地費に取られ、用地取得交渉が難しくて、なかなか進まない。同時に投機の対象となって莫大な不労所得を生み出す一方、桁違いな値上がりによって膨大な数の庭なし住宅が建設されるなど甚大な公共の福祉が失われた。
 また、地方分散は国土整備だけでなく、大規模災害対策の上でも重要であるが、効果的な具体策が取られていなかった。
 いびつな形の国土にはなったものの今まではこれですんでいたが耕作放棄地、放置林などはガンのように、国を崩壊させる。憲法に抵触しないのだから思い切った措置が必要である。
 改革はすべてにいいというものは少なくプラスの面だけでなくマイナスの面もあってそれらを総合的に判断していくものであるが、これまではマイナスの面ばかりが強調され、改善が少しずつしか進まないように見える。あげあし取りのことしか報道されないこともあるだろうが。
 法制度整備が世の中の動きを先取りし、前進する存在になってほしいものである。