逆転の思想−178        目次
              水道公論2018年5月号


 津波予測の信頼性
 東日本震災津波で、避難所に逃げた多くの人が予想を超える高さの来襲で亡くなった厳しい現実がある。
 東南海地震津波について、伝承などから予測値が小さいのではと感じていたが、土砂が一気に崩れることによる海底地すべりによって局部的にさらに高い津波が起きるおそれがあることが報道された。
 海底の断層がずれ動いて発生する通常の津波だけでは、なぜこれほど高い津波が局地的に押し寄せたのか説明がつかないことがあり、常葉大学の阿部教授が海底地すべりの検討を行った。
 伊豆半島の西にある静岡県の沼津市西浦江梨の寺「航浦院」には、15世紀の豪族、鈴木氏についてまとめられた古文書が残されていて、この中には「明応7年(1498年)8月25日に津波が打ち寄せ、人々は数知れず海底に没し、鈴木家の家系図や家宝がすべて失われた」と記述されている。
 鈴木家の屋敷は現在の「航浦院」の近くにあったと見られ、専門家の分析では、屋敷を襲った津波は標高およそ11メートルまで達したと見られているが、静岡県が東日本大震災のあとに見直した南海トラフ巨大地震の想定では、津波が達する高さは最大でも5メートル程度で、かなり低くなっている。
 阿部教授は海底地形に詳しい地質の専門家と協力して、駿河湾内で幅数キロの「海底地すべり」が4か所で発生したと想定し、シミュレーションしたところ、航浦院の周辺などに高さ10メートル前後の津波が押し寄せることがわかり、沼津市や焼津市などに残された記録とほぼ一致するとしている。
 思い出すのは東日本震災の起きる5年前に地質ニュースに発表された仙台平野の堆積物を調べた調査結果である。産総研や建築研究所の研究者が行ったもので、貞観地震津波の堆積物について少なくとも仙台東部道路の仙台東IC付近(海岸から4km)まで 追うことができたとしている。実際に今回の津波は仙台東部道路付近まで達していて、この調査報告がすぐに行政に反映されていたら、これほどの死者は出なかったと思われる。他にもこういう指摘があったのかもしれない
 信頼性に不安がある津波想定高であるので各種施設の設計になぜ安全率の概念が入っていないのか不思議である。特に避難場所の高さは津波がこれを少しでも超えたら皆助からないという大きなリスクがあり、その高さは安全率の考えをしっかり入れなければいけない。
 低地に多い下水道施設であるが、震災後機能しないと長期間、人や社会の活動が成り立たず、大問題になるので送水施設くらいは相当の安全率を持って、地震後すみやかに機能回復できるようにしておくことが肝要ではないか。未曾有という言葉を使うのは計画設計者として恥と考えなければならない。