逆転の思想−187        目次
              水道公論2019年3月号


 希有の災害
 クラタカウ火山のカルデラにできたアナククラカタウ火山の地すべり津波によって、インドネシアで4百人を超える犠牲者を出した。思い起こすのは1792年雲仙普賢岳の東北東4kmのところにある眉山が山体崩壊し、3.5km東の島原港に流れ込み、それによる津波で島原と20km対岸の熊本に1.5万人の犠牲者を出した島原大変肥後迷惑事件である。
 クラカタウの1883年8月末の大噴火では大規模な火砕流と津波が発生し、津波は鹿児島の甲突川まで到達し、インドネシアなどで3.6万人が亡くなり、噴煙により北半球の気温が0.5度程度下がり、数年間、夕焼けの色が異常であったそうである。1884年(明治17年)の東京の年平均気温は12.9度で、13度を下回ったのは1876年以来この年だけ。昨年は16.8度であった。
 これまでの大災害を考えると火山が一番怖ろしい。12万年前と9万年前に大規模噴火を起こした阿蘇山が同程度の噴火をしたとなると、九州は全滅、本州や四国は分厚い降灰によって全ての活動が停止してしまう。
 5.5億年前から始まった顕生代(古生代、中生代、新生代)で地球上の生物絶滅は何回も起きている。恐竜を絶滅させた中生代末65百万年前の巨大隕石衝突だけでない。2.5億年前の古生代末では深海の酸素がない状態が2千万年も続き、大規模な火山活動によるものらしいがとんでもない状態であったようである。
 40億年前に生命が誕生し、21億年前に核を容器に入れ、エネルギー代謝を効率的にやってくれるミトコンドリアを体内に共生させた真核生物ができた。多細胞生物が誕生したのが10億年前、生物が上陸したのが4.5億年前と生物進化にはものすごい時間がかかっている。
 生物絶滅時でも化石で示される2.5億年前のアンモナイト、65百年前の小型ほ乳類などほんの一部の生物は生き残った。この生き残った生物のおかげで現在の我々があることになり、大変ありがたい。
45億年の地球の歴史のなかで、光合成生物により、二酸化炭素が減り、十分な酸素が存在するようになったのは5億年前、それ以降氷河期などがあり、そもそも人類がまともに生きていける環境にある期間はごく短いように見える。
 希有の大災害が起きて、人類が滅亡しても、一部のほ乳類が生き残れば数千万年も経てば新たな高等生物が誕生していることだろう。そのとき現代の遺跡が残っていたらどんな思いで見つめられることになるであろうか。映画「猿の惑星」の世界がありうるものと思える。ただ子孫と思えば気が楽になる。
 全ての生物が死んでしまったら、あと10億年程度らしい地球の寿命から考えて高等生物の再登場は無理であろう。