逆転の思想−191        目次
              水道公論2019年7月号


 国の負債
 多額の国の負債であるが昨年末の時点で1013兆円でGDPの1.7倍、国民一人あたりにすると800万円となっている。これだけ政府が借金していても金余りで金利は0%と低く、インフレどころかデフレが続いている。過去、戦費などで大量の国債を発行した場合、ひどいインフレ、高金利になっていたことからするとありえないような世界である。このような状況について、日本国債の格付けを下げるなど、欧米金融界から冷ややかな目で見られていた。
 長年続いたデフレや経済の低迷に対し、政府が高額の貨幣を発行するとか国債を増発しても問題ないという主張がこれまで国内であった。これは、物価は需要と供給のバランスで決まるので国債が増えても需給バランスが取れていれば物価上昇がないこと、また返済が多くても、新たな国債を発行できるので金融危機は起きないというようなことである。
 最近米国などでMMT(現代金融理論)が注目を浴びている。これは自国通貨建てで国債を発行している政府は、いざとなったら紙幣を印刷すれば良いので債務不履行に陥ることはないというものである。政府が国債発行を増やしてもインフレにならない限り中央銀行が国債を買い取っていけば財政赤字を心配する必要がないことになる。
 この金融理論を実証しているように見えるのが日本経済である。多額の国債残高があるのにインフレも、金利上昇も起きていない。2014年から日銀が国債の購入をはじめ今では半分近い約460兆円までになっていて、これは結局政府紙幣を発行しているようなもので、国の実質債務が500兆円台に減っていることになる。
 不思議なのは年利0.05%と、とんでもない低金利の国債が、販促するようになってはいるが売れることで、10年物の米国債が2.2%、豪州債も一時よりは下がっているが1%台、東証一部上場会社の平均配当利回りが約2%なのにこれだけの低金利で国債が買われている。これは外国債では円高、株式では値下がりのリスクを重く見られているのであろう。ただ、利回りの差があるので大勢としては資金がドルに向かい、円安になっている。
 国債の引き受け手がなくなってくると金利がつくようになる。金利が高くなれば購入者は増えるが、利子払いが嵩んでしまう。日銀が購入すればいいように思うが上限がどの辺なのだろうか。
 為替と言えばどの国も輸出が増えると自国通貨が安い方を望んでいるが、安くなることは資産の価値が相対的に減ることになるので好ましくないように思える。
 経済が安定しているこのような状況であるから、国債をもう少し増やして介護や公共投資に支出する予算に当てても問題はないと思われる。