逆転の思想-194        目次
              水道公論2019年10月号


 公共施設遺産の管理
 5月ににフランス南西部のツアーに参加した。このあたりは聖地の巡礼路など興味があまりわかない宗教関係はあるが、ほかに大きく目を引く所が知られていない。観光客が少ない一方、G7会場のビアリッツなど街並みはどこも素敵で行った価値はあった。
 しかし当地には地中海とトゥルーズを結ぶミディ運河、トウルーズからガロンヌ川沿いに伸びてボルドーまで行け、水路橋が2カ所もあるガロンヌ運河など壮大な規模の舟運施設がある。また外航クルーズ船がガロンヌ川河口から95kmもさかのぼってボルドーまで航行ができる。
 フランスでも過去に大規模運河ネットワークが建設され残っている。パリから大西洋へも、地中海にも、ドイツへも運河が通じている。ブルゴーニュ地方など東部の運河は何日もかけて航行するホテル船が頻繁に運行されるライン川からドナウ川までの運河クルーズに近く、様々な航行コースがあり、船も少なくなく、船だまりも結構賑わっていた。
 ところが、南西部の運河は寂しい状況でボルドーを起点とする近辺のホテル船クルーズがあるくらい。トゥルーズの大運河を結ぶターミナルとなる船だまりも、船はまばらであった。ツアー会社も興味がないようで、今回のツアーでもすぐ近くにあるのに運河施設の見学は一カ所もなかった。そこで少ない自由時間に出かけていた。
 英国には無数の運河があり、運河航行が多くの人のレジャー対象となっている。船の操船免許は必要なく、閘門操作は航行者が行うなど自己責任の世界であるが、どこに行っても多数のナローボートという運河専用の居住施設を備えた船を見かける。このように利用者が多いところは問題がないと思われるが、少ないところの保守管理が心配になる。
 水路管理のほか閘門操作を行わなければならない。閘門操作は、入ってくる船に合わせて閘門内の水位を調節し、ゲートを開け、船が入ったあとゲートを閉め、出口の運河水位にあわせて大量の水を出し入れし、その後ゲートを開けて船が出ていくという時間がかかるものである。閘門の数は全長240kmのミディ運河では63、全長193kmのガロンヌ運河では54もある。管理人が2~3カ所の閘門を担当して、オートバイなどで移動して操作することなどあるが、このために多額の経費が使われていると思われる。トウルーズのミディ運河ではゴミ集めをする清掃船が運航していた。
 運河は整備して間もなく鉄道の登場により大量輸送交通手段として使われなくなってしまった。現在、ミディ運河、ガロンヌ運河などが世界遺産に登録されるなど、フランス南西部の運河は航行ができるよう管理されているようで、急峻な地形に苦労してつくられた鉄道の廃線がすぐ消えてしまう我が国と大違いである。