東京湾のアサリ 2005/5 亀田 泰武
1,はじめに
江戸前の水産物の一つであるアサリは昔から潮干狩りの対象であり、数多く生息していた。しかし都市化、埋め立てなどにより東京港付近では姿が見られなくなった。東京湾では木更津周辺で潮干狩りが行われているが、けっこうよそからの運び入れが多いとのこと。東京港付近では、三番瀬で繁殖していると聞くが、一度青潮が発生すると死滅してしまう。ただ2004年は比較的順調に生育したようである。
アサリは1年で卵を生める程度になる繁殖力の強い貝であり、海水を大量にろ過して、プランクトンをこしとって食べるため、生息数が多いと海水のろ過能力も大きくなる。
全国的に見るとアサリの漁獲量は減少している。アサリ漁獲減少の原因解明調査はいろいろな機関で行われているが解明は進んでいない。今後資源増産と水質保全をかねたアサリの繁殖を増やす必要がある。
2,アサリの生態
アサリの産卵は、主に秋という説、春と秋が中心だが冬を除く1年中という説がある。 卵は10時間くらいで孵り、浮遊幼生となって浮遊し2〜3週間後に海底に降りる。
成長は早く、1年くらいで3cmくらいの産卵可能な大きさまで育つ。従って条件さえ良ければどんどん増えると考えられる。
3,アサリの漁獲
20年前の1980年代初期には全国で年間14万トンくらい捕れていたのが最近では5万トンくらいに減っている。
4,東京湾奥部での生息
数少ない奥部での浅瀬についてみると、三番瀬では青潮がなければ順調に生育すると考えられる。多摩川河口干潟では7〜8年前まで潮干狩りが行われていたが今は非常に少ない。
5,アサリの減っている理由
アサリの生息環境に影響する要因として、海水の汚れ、乱獲、海底の状況、塩分濃度、外敵生物、青潮など貧酸素状態、餌の有無、などが考えられている。
○塩分濃度
アサリは多少塩分濃度の薄いところを好むと言われている。地下水が浸み出す砂浜がいいという話しもある。浜名湖での調査によれば、以前は海近くの河口に多く生息していたが、外海水を湖内にスムースに流入させる導琉堤整備、航路浚渫などにより湖内の塩分濃度が上昇した結果、湖の奥の方にも生息するようになった。また湾口部のアサリ漁場が消失した。
http://www.orange.ne.jp/~ulotto/gakusyu/asari/asari.htm
洪水などによって一時的に大量の淡水が流れ込み、塩分濃度が急低下することは斃死などにつながり良くないとされている。
○青潮
東京湾北部湾奥に見られるような大規模青潮の発生により、アサリをはじめ多くの生物が死滅する。ただアサリは繁殖能力が高いため、環境が良ければすぐ復活する。
○水深
舞鶴湾での調査によれば、アサリを水深を変えて生息状況を調べたところ、水深1mのものは減少しなかったが、水深2mと3mのものは、網をかけた場合を除き、数が激減していた。これから水深1mくらいが外敵に襲われることがなくアサリ生息に好ましいとしている。http://www.pref.kyoto.jp/kaiyo/3-publication/kiho/59-asari/59-asari-01.html
逆に多摩川河口や瀬戸内海で、潮干狩りができるような浅い水深でのアサリが激減し、採取場所が深場になっている話もある。
○海水の汚濁
全国的に海域の水質は改善の後、横ばいであり、汚濁が原因とは考えにくい。
○生息環境
陸上からの土砂の流入が減っていることによる影響については、新たな砂を入れたりする効果があると言われている。
http://www.chugoku-np.co.jp/kikaku/satoumi/w030929.html#naze
http://www.syoku-my.com/zakki/uradowanbunko/matida/urado08.html
砂がどういう影響を与えているかについては不明。珪素の溶け出しの効果があるのかもしれない。このほか微量の栄養素、必須元素が不足している可能性がある。カルシウムは海水中に高濃度で存在し、不足状態にはならないと考えられるが、湾奥など特殊な条件では同じような状態かどうかわからないので、それらの水質測定も必要と考える。
東海豪雨によって大量の土砂が流入した知多湾では、淡水の増加により一時的にアサリ資源もかなり打撃をうけたものの、がその後順調に復活している
http://www.pref.aichi.jp/suisanshiken/21226.html
底質の性質であるが、アサリは少し泥が含まれている海底でも、掘ると還元状態の黒い底質がでてくる有機質濃度が高いところでも生息しているとされる。
○プランクトン
餌となる珪藻プランクトンが減っていることが考えられる。
1989年1〜3月に木更津地区でアサリの大量斃死が見られ、その原因として海水透明度上昇が示す餌不足と海水温上昇による基礎代謝増により弱り、出水時など低塩分などとあわせ斃死していったと考えられている。海水の透明度上昇が栄養塩不足によるものか、ケイ素など必須元素不足なのか、追跡が必要であるが、富栄養といわれる東京湾でもこういう事が起こることを考慮していかなければならない。
東京湾木更津地区における冬季のアサリ斃死の特徴 千葉県水試報、No.50,p21-30,1992
6,考察
アサリは海水のろ過能力が高く、他の生物の食料にもなり、大量に増えて欲しい生物である。ただ、窒素リン濃度が非常に高い東京湾奥でなにもせず、アサリの自然繁殖を期待することには無理がある感がある。里山の管理や養殖事業のように、状況に応じて、できるだけ繁殖を助ける活動が必要と考える。
考えられる要素として、珪藻プランクトン増殖のための珪素などの添加、干潟上流での淡水の補給、砂の補給がある。費用、効果など具体に調べていくことが望まれる。